平成30年度税制改正ではいくつかの重要テーマがありますが、税理士業界としてはこの事業承継税制の改正が一番の重要テーマといわれています。
事業承継税制がマイナーチェンジからフルモデルチェンジ!
経営者の高齢化と後継者不足、自社株式の引き継ぎが社会問題になっていますが、税制では平成21年に事業承継税制が創設されました。
ただ、使い勝手が悪いとか、取り消されたときのリスクが高い、ということでほとんど利用されないまま、毎年のようにマイナーチェンジを繰り返してきました。
いよいよ団塊の世代が70代になってきましたので、待ったなしということで今回大きくテコ入れがされています。
事業承継税制とは、非上場会社の株式等を先代経営者から後継者が相続又は贈与により取得した場合において、経営承継円滑化法における都道府県知事の認定を受けたときは、相続税・贈与税の納税が猶予及び免除される特例制度といわれています。
これが今年の税制改正で、10年間限定で大幅に条件やリスクを緩和した特例の特例という制度が創設されました。
新・事業承継税制…と言ったりもするようですが、大前提として今月から5年以内に承継計画を都道府県に提出していることが必要となります。
その提出をしておくと特例の扱いになります、という改正です。
事業承継税制の改正内容
現行制度と10年間は2本立てになります。現行制度がなくなるわけではなく、現行の一般の事業承継税制の条件を一部緩和した形の特例となるため、現行制度もきちんと押さえておかないと新税制の理解ができないという形です。
条件は平成30年4月1日から5年間で特例承継計画を提出し、39年12月31日までに贈与することが条件となります。
MAX100%の納税猶予で納付税額がゼロになる
まず、対象株式は発行済株式総数の3分の2で、相続時の猶予税額は80%です。贈与時には100%ですが、相続時に20%は納税が必要になります。その結果66%×80%で約53%が猶予される税額で、47%については相続税が課税されるというのが現行の一般制度で、これが特例を使うと全株100%となります。
雇用継続要件が実質的に撤廃された
次に最初の5年間の雇用継続要件が80%というのがあります。10人社員がいたら平均8人は継続して雇用しないといけないというものです。これをクリアできないと取り消されて猶予された税金を一括納付しないといけない制度でした。
当初は一度でも下回ると取り消しになっていたのですが、今は平均でいいことになっています。それでもこの人手不足のなかで、中小企業にとっては非常に厳しいため、雇用継続要件を満たさなくても理由をきちんと説明できれば継続可能となっています。
贈与者、受贈者が複数でも可能になった
次が贈与者の要件が先代経営者のみだったのが、先代経営者を含む複数株主も可能となり、先代グループの株式を後継者に集約することも可能になります。
受贈者についても後継者3人までとなります。ただし全員が代表権をもつことと、それぞれ10%以上の持ち株を取得することという条件があります。この結果、子供夫婦や兄弟で…など多様な承継のスタイルに対応することもできます。
親族以外でも相続時精算課税が使える
相続時精算課税も平成29年の改正で選択可能となったばかりですが、今回の特例ではさらに親族以外でも可能となります。
ただし年齢制限60歳以上の人から20歳以上という条件はクリアする必要があります。
経営環境の変化やM&Aで納税猶予が取り消されたときにリスクが軽減
また、経営環境の変化やM&Aの時などに納税猶予が取り消されて猶予税額に利息をつけて納税が必要になるリスクを軽減するために再計算の制度が設けられます。具体的には譲渡なら譲渡価額、解散などであれば解散時の時価をもとに再計算して猶予税額の一部が免除されるというものです。