経過措置医療法人から新たな認定医療法人(持分なし医療法人)への移行のメリットとデメリット

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

平成29年度の税制改正と医療法の改正により平成29年10月1日から32年9月30日までの3年間限定で、持分のある医療法人、いわゆる経過措置医療法人から持分なし医療法人への移行が少し実施しやすくなります。

いわゆる新・認定医療法人制度がスタートしています。

持分あり医療法人(経過措置医療法人)とは?

持分なし医療法人は平成18年の第5次医療法改正で始まった制度です。

医療法人の殆どは社団法人ですが、平成18年改正前の従来の社団法人では設立のときに社員から出資金をだしてもらって設立がされていました。

有限会社などと同じ仕組みですから、未処分利益として社内に留保される利益については含み益として膨らんでいきます。この含み益は売買や相続、贈与などの対象にもなり、財産としての価値があるものです。

当然、出資者が離脱したいから出資金に応じて返金してほしいと言われると、返還しないといけないものです。

一人医師医療法人の場合には消費税課税事業者にならないようにとか、住民税の均等割額を最低限にするために1000万円未満にするのがセオリーでした。

つまり1000万円弱で出資してスタートして、毎年1000万円の税引き後利益がでると10年経つと1億1千万円、20年経つと2億1千万円という形で純資産額が大きくなってくるというのが特徴です。

理事長が1000万円全てを出資していたとすると、将来の遺産分割や相続対策を考える年齢になる頃には危機的な状況になっているわけです。

財産の分配権や払い戻し権という財産権としては出資者に権利が残りますが、法人側からみるとこれは同時にリスクにもつながります。医療法人の経営の屋台骨を揺るがす事態になりかねないと厚労省は考えたわけです。

このため、この持分あり医療法人が平成18年の改正で新規の設立ができなくなりました。

一方で財産権は憲法で認められた権利ですので、国や役所が法律で取り上げることはできないのが原則ですので、従来の制度で作られた医療法人のそのまま継続していて、未だに平成29年現在でも75%は持分あり医療法人といわれています。

持分ありと持分なしの違い

持分なしになるとどうなるかというと、設立者である理事長や親族は医療法人から離れる場合に退職金以外の金銭の払い戻しを請求できません。もともこ財産の権利をもっていないのですから当然です。

設立時に貸したお金だけを無利息で返済すればいいという制度に変わりました。

一方で医療法人の社員総会の議決権は、もともと出資額に応じてではなく、1人1議決権ですからこれは従来とかわりありません。

基本的には持分ありと持分なしの差は、法人から離脱するときの払い戻しや解散時に残った財産の分配を請求することができないだけなのです。

持分なしになると相続リスクが軽減できるが、ケースによってはメリットにならないことも・・・

持分のありとなしとのメリット、デメリットは表裏一体です。

個人にとっては含み益についての残余財産の分配請求ができないこと、とは逆に医療法人にとっては相続リスクを軽減できることになります。もちろん、個人にとっても相続税の課税対象ではなくなるわけですからメリットです。

ただし、財産の大部分が現預金で役員退職金で取り切ってしまえば手元の現預金に相続税がかかるわけですから、特にメリットやデメリットはなくなります。

あくまでもこれらは不動産や医療機器などの固定資産の割合が高かったり、医療法人に含み益、内部利益を残したままで後継者に引き継ぐ場合だけの論点でしかないのです。

持分あり、持分なしのメリットやデメリットを論じる前に、創業者である理事長の医療法人からの出口戦略や相続対策をどうするのか、ということを考える必要があります。

持分あり医療法人から、持分なし医療法人への移行の留意点

厚生労働省は従来の持分あり医療法人を減少させて、持分なし医療法人に移行させたいと考えています。

そのため毎年のように手を変えながら、移行しやすいような方法を提案してきました。

その方法が平成29年10月から改正されています。

持分なし医療法人への移行は実は簡単?

持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行は実はそれほど難しくはありません。

都道府県の窓口に持分がない医療法人への定款変更の手続きをして、認可がおりれば完了です。これは今までも特に変更はなく、税務の取り扱いを考えなければ数カ月あればほぼ確実に移行が可能です。

ただし、ここには税務上の大きな落とし穴があって、単純に定款の変更をして、出資者の持分を放棄してしまうと、一般社団法人に贈与する場合と同じように、医療法人に対して贈与税が課税されます。

受贈益に対する法人税課税ではなく、あくまでも個人とみなして贈与税課税なのです。

最高55%ですが、贈与税なのであっという間に最高税率になってしまいます。

これが持分なし医療法人への移行のボトルネックになっていました。

この贈与税課税がされないように、徐々に小出しに例外規定を設けてきたのが今までの取り扱いです。

それでも例外規定のハードルが今までは結構厳しくてほとんど移行はされてきませんでした。

平成29年10月からハードルが一気に下がった

平成29年度の税制改正と医療法の改正で、このハードルが一気に下がりました。

今までは同族経営の場合には贈与税が非課税にならなかったのですが、同族経営でもOKとなりました。この結果、非課税の要件は次の8つに集約がされています。

  1. 法人関係者に対して特別の利益を与えないこと
  2. 役員に対する報酬等が不当に高額にならないような支給基準を定めていること
  3. MS法人などの株式会社等に対し、特別の利益を与えないこと
  4. 有給財産等は事業にかかる費用の額を超えないこと
  5. 法令に違反する事実、帳簿書類の隠蔽等の事実その他公益に反する事実がないこと
  6. 社会保険診療等(介護・助産・予防接種含む)に係る収入金額が全収入金額の80%を超えること
  7. 自費患者に対し請求する金額が社会保険診療報酬と同一基準によること
  8. 医業収入が医業費用の150%以内であること

これでも十分にハードルが高いような気がしますが、それでも十分に現実的ではある条件です。

ただし、手続き的には厚生労働大臣や都道府県知事の認可などが必要となり、移行完了後も経過観察として6年間毎年報告する必要があるなど、結構煩わしい話です。

さらに途中で要件を満たさなくなると、その段階でさかのぼって贈与税が課税(加算税など罰則等はない)されることになります。

基本的には一度移行をすると後戻りができません。税金がかかるからやめまーすとは言えないのです。

細かい内容や税制の扱いはこれからさらに明らかになってくると思いますので、慎重に検討したほうがいいかもしれませんね。