時価とは何?
相続税法22条では次のように評価の原則を定めています。
「相続税法第二十二条」
この章で特別の定めのあるものを除くほか、
相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、
当該財産の取得の時における時価により、
当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
ここでいう特別の定めというのは、23条~26条に個別に規定されているものです。
地上権及び永小作権、定期金に関する権利、立木といったものが個別に定められていますが、それ以外は相続税法の本法には定められていないのです。
そのために、この「時価」というのが何を指すのかが実務的な取り扱いとなります。
実務的な取り扱い
実務では、「財産評価基本通達」に基づいて評価を行います。
上級官庁から下級官庁への申し送りが通達であり、法律ではありませんから納税者に対する拘束力はありません。
租税法律主義といって法律に則って課税をすることが租税法の基本概念となっています。
一方で税務署は財産評価基本通達が唯一無二のものとして対応します。税務署員にとっては通達は必ず従わなければルールだからです。
そのため、通達と異なる評価をする場合には税務署に呼び出されて争いになることを覚悟しなければならなくなります。
無用の争いは実務上の効率の観点からも避けるべきですし、財産評価基本通達に則った評価をする限りは有効な評価と推定されるため、現実的には税理士や納税者もこの財産評価基本通達に基づいた評価をして申告することになります。
つまり、法律ではないものの通達は実務的な拘束力を持つ共通ルールということになります。
財産評価基本通達では時価とは何かを定義しています。
財産の価額は、時価によるものとし、
時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、
不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。
言い換えると、売り急ぎ等のない客観的交換価値を時価としています。
この定義に基づいて財産評価基本通達は各種の財産の評価を規定しているのです。
財産評価基本通達に規定されていない財産はどうするの?
世の中には様々な種類の財産があり、土地などは二つとして同じものがないと言われています。
金融資産などは日々新しい商品が開発されています。
そのため財産評価基本通達に全ての種類の財産を盛り込むのは不可能です。
つまり財産評価基本通達には適用の限界があるといえます。
通達に書いていないものはどうする?
単純に財産評価通達に書いていない場合は、総則5項で評価通達に準じて評価するように定められています。
(評価方法の定めのない財産の評価)
5 この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する。
土地でいうと多少法律的な根拠は違うけど、似たような環境のケースであれば、その評価通達を使って評価するという感じのものです。
また、財産評価通達の方法で評価するのが著しく不適当であるようなケースもあります。
荒れ果てた無道路地で明らかにどこからも行き場のないような土地などが該当するでしょうか?
この場合には、総則6項で国税庁長官の指示を受けて評価するように定められています。
(この通達の定めにより難い場合の評価)
6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
税務署員は国税庁長官の指示を受けて個別評価できるができるのです。
最近の例ではタワーマンションの事例がこの規定の適用になったといわれています
税理士は国税庁長官に相談することはないので、不動産鑑定士の鑑定評価などを使って評価することになります。
著しく困難であることを立証しないとこの規定の適用を受けるのは難しいと思いますが、どうやっても売れないような土地について評価額ゼロの申告が認められたケースも当社ではありました。
財産評価に慣れている税理士とは
財産評価に慣れている税理士と、慣れていない税理士の差はどこにあるでしょうか?
財産評価基本通達は遵守すべき法律ではありませんが、財産評価の共通言語であるといえます。
共通言語である財産評価基本通達をマスターしているかどうかが相続税になれている税理士の最低条件といえるでしょう。
まずは財産評価基本通達で評価をしてみて腑に落ちる結果になれば問題ありませんが、腑に落ちない場合には総則5項を発動して財産評価基本通達の解釈内で適切な評価額になるように検討すべきといえます。
さらにどうしても不適当と思われる評価になるケースでは、最終手段として総則6項を発動させて財産評価基本通達によらない方法も視野にいれるというところでしょうか。
いずれにしても一朝一夕でこの辺りのさじ加減がわかるようになるわけではないようです。
私たちもまだまだ自信をもってできているとはいえませんが、実務を行ううえでの経験に基づいて、徐々に腑に落ちる評価ができるようになるのかもしれませんね。