遺産分割のやり直しの取り扱いで多額の税金が?相続の落とし穴!

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遺言がない場合の相続手続きとは

遺言がない場合、相続財産は遺産分割協議により相続人がわけることになります。

不動産登記手続きや預金の解約などは遺産分割協議書という書面をもとに手続きを行うことになります。

それでは遺産分割をいったん行って、財産の分け方を決めてしまうと後からやり直すことはできるでしょうか?

そもそも分割をやり直さないといけないような状況はあまりないと思います。

相続した財産が思ったよりも高価であることが後でわかったようなケースでしょうか?

10万円だと思っていた美術品が実は1億円の価値だったとしたらやはり再度分割について話し合いたいと思うでしょう。

民法と相続税の違いを理解しよう

民法上はいったん成立した遺産分割協議であっても、相続人全員の合意によって合意解除して、再度遺産分割協議をやり直すことができるとされています。

相続人全員で納得して再度話し合って相続財産の分け方を決めなおすことについてなんの制約もないということになります。

それでは税務上はどのように扱われるでしょうか?

当初の遺産分割が有効なものである限り、遺産の再分割は相続ではなく、贈与や交換によって行われたという考え方になります。

相続税法基本通達19条の2-8に次のように記載されています。

法第19条の2第2項に規定する「分割」とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により取得した財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい、その分割の方法が現物分割、代償分割若しくは換価分割であるか、またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割であるかを問わないのであるから留意する。

ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。

つまり、相続税としてはいったん有効な申告となるため、更正の請求などはできないということになり、当初の分割と異なる部分は贈与として贈与税の対象、または交換として譲渡所得税の対象となることになります。

ただこういった論点では、有効な遺産分割の場合は…という話がついてきます。

つまり民法上有効な場合にはやり直しができないというのが税務の取り扱いです。

錯誤無効の場合はどうなる?

それでは有効ではない、つまり無効な分割の場合にはどうなるでしょうか?

これが争われた事例がありました。錯誤無効による遺産分割のやり直しが認められた事例です。

税理士の指導により配当還元方式による株式の評価が認められるという前提での分割をしたはずが、実はその持ち株割合では配当還元方式がとれないということが相続税の申告後に判明したという事例でした。

この場合には、遺産分割の前提としていた事実に錯誤があったことから当初の分割が無効とされ、遺産分割のやり直しに基づく相続税の更正の請求が認められました。

もちろん、最初から認められたわけではありませんでした。

税務署も国税不服審判所でも認められず、裁判になってはじめて認められたという事例です。なかなか厳しい判断になります。

それでは実務上、このような手続きは可能でしょうか?

これについてはかなりのリスクを負うことになります。

もちろん、本当に遺産分割自体が無効という争いが起こって、訴訟によって分割がやり直しになるような事例については認められる可能性が高いと思います。

一方で、実務的には錯誤による無効でやり直したのか、合意解除によってやり直したのかの判断は難しいと思います。

それを税務署にどのように主張立証していくのか困難な作業になります。

それによって相続税が安くなるようなケースではなおさらです。

節税を目的に合意解除してやり直したと思われるのが現実でしょう。

そうなった場合にはどうなるか…

合意解除でやり直したと判断されると、贈与税か譲渡所得税になりますから、仮に贈与の場合ではかなり多額の贈与税が予想されてしまいます。

不動産などの登記のやり直しの費用などを含めると決して割に合うものではありません。

つまり、安易な分割確定は禁物なのです!

相続税の申告期限までに分割が確定しないと受けられない特例もありますが、それも手続きをすることで適用が可能となります。

分割も相続税の申告も相続人全員が納得して行うことが大切ということですね。