平成30年度税制改正で小規模宅地の特例(家なし親族)が制限される理由は?

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14日に公表された与党の税制改正大綱、一夜明けて一通り内容を確認してみました。

特に気になった改正項目は3点でした。

  • 給与所得控除や基礎控除等の所得税の見直し
  • 小規模宅地の特例の制限
  • 新しい事業承継税制の創設

このうち小規模宅地の特例の制限についてを今回は書きます

家を持たない親族(家なき子)のケースの制限

特定居住用宅地についての改正になりますが、現行の基本的な考え方からみていきます。

小規模宅地の特例の特定居住用宅地とは?

小規模宅地の特例のうち特定居住用宅地は、原則は亡くなった方が住んでいた自宅の土地を配偶者が相続したり、同居している親族が継続して住み続ける場合でそれらの人が相続すれば、評価額が330平米まで80%減額されるという特例です。

例えば自宅敷地が200平米、5000万円の土地であれば、8割の4000万円だけ評価がさがり、1000万円について相続税が課税されることになります。

これは大きな節税になる特例といえますね。

配偶者がいなかったり、親族が同居していない場合には?

それでは、配偶者がいなかったり、親族が同居していない場合にどうなるでしょうか?

基本的にはこの制度は使えませんが、自宅を持っていない親族が相続する場合には、特例の適用があるという特例の特例みたいな制度があります。

これを実務家は「家なき子」とか「家なし親族」などと呼んでいます

安達祐実のドラマの影響で「家なき子」が浸透してしまっていますが、実際は子どもだけに限らない制度です。ですから「家なし親族」が正しいのです。

現行の適用条件は?

家なし親族のケースの適用要件は次の5つとなります。

1から3の全てに該当する場合で、かつ、次の4及び5の要件を満たす人

  1. 相続開始の時において、被相続人が一時居住被相続人、非居住被相続人又は非居住外国人であり、かつ、取得者が一時居住者又は日本国籍及び日本国内に住所を有していない人ではないこと。
  2. 被相続人に配偶者がいないこと
  3. 被相続人に、相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でその被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)である人がいないこと
  4. 相続開始前3年以内に日本国内にあるその人又はその人の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと
  5. その宅地等を相続税の申告期限まで有していること

元々救済的な意味合いの制度ですから、配偶者がいる場合や同居親族がいる場合にはそちらで特例つかってください、という趣旨が2と3ですね。

4は家なし親族ですから、相続開始前3年間は自分か配偶者名義の家に住んでいないことです。

5は保有継続の条件です。申告期限までに売却しないことが条件となります。

うまく当てはまれば儲けもの、、という話かもしれませんね。

はじまりは平成22年度改正から

うまく当てはまれば、、というところが問題なのですが、実際のところは人為的にこの状況をつくりましょう、的な提案が行われることになります。この原因が平成22年度の改正です。

それまでは被相続人の居住用については最低でも50%減額というのがありました。

特定居住用とともに一般の居住用があり、一般は50%減額とされていましたが、平成22年度税制改正で居住継続や保有継続の要件が重視されて、一般の居住用が廃止されました。

さらに330平米に面積が広がったり、併用の場合の按分が厳格化されたり、とこの数年で大きく制度が変わったため、要件を満たせば大きな節税が可能ですが、満たさないと大きな不利になるということがおきました。

節税アドバイスが財務省の怒りを買ったのか?

そんなときに節税のアドバイスをする人たちが、こういう提案をもってくるわけです。

  • 同居していない子供が相続するなら、今住んでいる子ども名義の自宅は売却するか、他人に賃貸し、子どもは借家住まいにしたほうがいい
  • 外部に売却しないなら、とりあえず他の親族や同族法人名義にしておけば大丈夫
  • 3年以内に相続がおきそうだったりして、上の2つがダメならお母さんは老人ホームに入ってもらって、空き家になった自宅は賃貸して貸付事業用の小規模宅地の特例を使いましょう

これならうまくいけば家なし親族に該当して80%減額の適用を受けることができるかもしれないし、少なくとも貸付事業用で50%の減額を受けることができます。

こういう人為的な操作について国税当局、財務省は待ったをかけたわけです。

平成30年4月以降の新しい制限は?

改正の趣旨としては上記のような感じだと思いますが、実際の改正内容は次のような制限が加わることになります。

  1. 持ち家に居住していない者に係る特定居住用宅地等の特例の対象者の範囲から、次の者を除外するイ:相続開始前3年以内に、その者の3親等内の親族又はその者と特別の関係のある法人が所有する国内にある家屋に居住したことがある者ロ:相続開始時において居住の用に供していた家屋を過去に所有していたことがある者
  2. 貸付事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っていた者が当該貸付事業の用に供しているものを除く。)を除外する。

※この改正は平成30年4月1日以後の相続又は遺贈により取得する財産に係る相続税から適用されますが、2の改正については、同日前から貸付事業の用に供されている宅地等には適用されません。

どうでしょう、まさに先ほどの節税アドバイスを潰すための制限といえそうです。ただ、結果として制限が加わってしまう人もでてきそうです。

例えば自宅ではなく空き地を保有していた人がアパートを建築して、3年以内に亡くなった場合は、他に物件を持っていなければ2の制限にひっかかりそうです。

4月からの適用になりますから制限にかかりそうな人は急いで建てて、賃貸をスタートしたほうがいいかもしれませんね。あくまでも同日前から貸付事業の用に供されている場合には適用されないわけですから建築済でも貸付を開始いないといけません。こういった駆け込みももしかしたらあるかもしれません。