広大地評価の通達改正にむけて

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既にご存じの方もおられると思いますが平成29年度税制改正において、平成30年1月1日より面積が500㎡以上の広大地の評価について財産評価基本通達を改正(平成30年1月1日以後の相続又は贈与から適用)することが発表されております。

今般6月22日に広大地評価に関する財産評価基本通達の一部改正について、パブリックコメントが発表されました。パブリックコメントにより試算を行ったところ、従前より相続税評価額は高く計算される傾向にあることが判明しました。

広大地に該当する土地を所有されているお客様に置かれましては、平成29年中に贈与をすることにより、広大地評価を適用することができます。

当社では9月から10月にかけて500㎡以上の土地をお持ちの顧問先のお客様を個別に社員税理士が訪問し、お客様へのご説明と今後の対策についてご相談させていただいております。

広大地評価改正の概要について

(1)改正前の評価方法

財産評価基本通達で「広大地補正率」が定められています。

広大地の価額=正面路線価×広大地補正率×地積

※適用要件が厳しく、判定が難しい反面、非常に大きな減額が可能。

(2)改正後の評価方法

財産評価基本通達で「規模格差補正率」を定めます。

表現も「広大地」から「地積規模の大きな宅地」と変更になります。

地積規模の大きな宅地の価額=正面路線価×補正(※1)×規模格差補正率(※2)×地積

※1・・・奥行価格補正、側方路線影響加算等の加算、不整形地補正を行います

※2・・・規模格差補正率=A×B+C/A×0.8
A  地積規模の大きな宅地の地積
B、C 地区と面積に応じた数値が規定されています。

※適用要件が緩和され、判定が容易になる反面、減額幅が大幅に縮小。

平成29年中に可能な手続き(相続時精算課税による贈与)

広大地は地積が大きいため相続税評価額が多額となります。一般的な暦年贈与では超過累進税率が適用されるため、課税標準が3,000万円を超えると55%の贈与税率が適用されてしまいます。

そこで、「相続時精算課税を利用した贈与」を選択することとなります。相続時精算課税では贈与した年の確定申告で、特別控除額(2,500万円)を引いた金額に20%を乗じた税額を、申告納税します。実際に相続が発生した際には、贈与時の課税価額が相続財産に加算され、税額の精算が行われます。直接節税になるものではありませんが、相続時精算課税を利用することにより土地の評価を固定することにメリットがあります。

相続税精算課税で贈与するメリットとデメリット

(1) メリット(効果)

① 平成29年中に相続時精算課税で贈与を行うことにより広大地を適用した土地の相続税評価額が贈与税申告時の課税価額(贈与時点の相続税評価額)となります。

本来であれば、相続開始時点の相続税評価額(改正後の規模格差補正率評価)で課税されるところを、相続時精算課税を適用した課税価額(改正前の広大地評価)での加算となるため、相続税が課税される金額が少なくなります。その結果、相続税の節税につながります。

② 生前の贈与を行うことによって、相続発生時には遺産分割の対象から外れます。

(2) デメリット(留意点)

  •  平成30年3月15日までに相続時精算課税贈与に伴う、贈与税の申告と納税が必要です。
  •  贈与の場合には相続に比べて、登記費用(登録免許税)が高くなります。
    登録免許税 税率 相続 4/1000  贈与 20/1000
  •  不動産取得税は相続では課税されませんが、贈与では課税されます。
    不動産取得税 税率 3/100  ※ 宅地の場合は減額があります
  •  相続時精算課税の贈与税申告について、広大地評価を否認されるリスクがあります。
    ※広大地評価を利用した評価を課税庁が否認した場合には、広大地評価を適用しない課税価額で贈与税を支払う必要があります。相続税においても、贈与税の課税価額(広大地を適用しない価額)が加算されてしまいます。平成29年の評価となるため改正後の補正率の適用もありません。
  • 比較的形状が良く潰れ地の生じない土地の場合は、注意が必要です。
    ※裁判や裁決の積み重ねで年々広大地評価については基準が厳しくなってきており、以前の相続で通ったからといって無条件に認められるとは限りません。
  •  相続時精算課税は一度選択すると暦年贈与に戻ることができません。
    ※翌年以降、同じ贈与者から贈与を受けた場合は、相続時精算課税の追加適用となり、贈与額が累計で2500万円を超える場合には贈与税申告で20%の税金を支払った上で、相続発生時に加算されて、精算されることとなります。つまり、翌年以降、現金贈与のような少額の生前贈与のメリットが受けられなくなります。今後の対策を踏まえて、慎重に選択を行う必要があります。

結論として

広大地評価と改正後の規模格差補正率評価の価額差によっては、相続時精算課税制度を使用して平成29年中に贈与することで大きな節税になる可能性があります。

その一方で、現行の広大地評価は適用要件が厳しく、判定も難しいため、広大地評価で申告をしたとしても税務署から否認されるリスクが伴います。また、登記費用や不動産取得税も高額となるうえ、暦年課税の贈与ができなくなることで以後の生前対策に制約が生じることになります。そのためお客様のご年齢も考慮にいれる必要もあります。

上記を踏まえたうえで相続時精算課税による贈与をするかどうか、お客様のご判断が必要となります。当社として相続時精算課税による贈与を推奨するわけでも、否定するわけでもないことにご理解ください。